こんにちは、このブログを運営している理系しまびとです。
僕はアメリカ・ニューヨークの大学院のDoctoralコースに在籍しているPhD Studentです。
別の言い方をすると、海外大学院に正規留学中の博士後期課程の学生です。
この記事では、ドイツに一年留学していた経験も踏まえて、海外大学院進学のメリットとデメリットを紹介します。
この記事は、日本の理系大学生、大学院生向けに書いています。
こんな方におすすめ
- 日本の大学院に進学予定の方
- 海外大学院に興味がある方
- 大学院での研究留学を考えている方
個人的な意見ですが、結論から言うと一番のメリットは経済面です。
アメリカでは基本的に博士課程(PhD)は学費免除、ドイツでは修士課程(Master)においても無料・格安の場合も多いです。
さらに、海外大学院の学位は海外就職・就活する際に有利になります。
デメリットは、場合によっては必修単位数が多く研究に集中できない期間が長いことです。
また、審査や授業は語学の壁もあり、日本よりも学位取得までの道のりが厳しいと感じます。
僕の場合、日本で修士号を取得した後、アメリカの大学院(PhDコース)に正規入学しました。
ドイツでの1年間の研究留学の経験からドイツのケースも含めながら紹介します。
もくじ
博士課程のシステムの日本との違い
はじめに、修士課程と博士課程の違いを説明します。
ドイツやヨーロッパの大学院のシステムは日本とよく似ています。
欧州や日本の多くは学部卒業→修士課程→博士課程という流れであるのに対して、
アメリカでは学部卒業→修士課程(2年) OR 博士課程(5年)となっています。
括弧内の年数は目安で、人それぞれです。
日本と比較して、海外の大学院では卒業するタイミングにばらつきがあります。
日本やドイツ(ヨーロッパ)の大学院
ドイツには、博士前期課程(マスター)博士後期課程(ドクター)があります。
※大学や国によって差があることがあるので、興味のある大学院・国を調べてみてください。
日本と同じように、修士課程(大学のプログラムや個人差によりますが、通常2年間)を終えてから、博士課程(平均3年間程度)に進学します。
日本との違いは、その学生や研究室の教授、プログラムによって、卒業までのタイミングが日本よりもバラバラです。
ドイツに居るときにドクターの学生に質問すると、
「うちの研究室は大体みんな3年で卒業するけど、隣の研究室は4年で卒業する。企業とのプログラムで学位取得をしようとしている人はもっとかかったりする。」
と言ってました。
アメリカの大学院
アメリカのシステムは、日本やヨーロッパとは少し異なります。
学部を卒業すると、Master:マスター(修士号)かPhD(博士号)を選択する必要があります。Masterは基本的に2年間で、PhDはおよそ5~7年間です。
つまり、日本のように学部→修士:2年間→博士:3年間 という流れではなく、学部→修士: 2年間または学部→PhD(修士+博士:5年間)という流れになっています。
アメリカの修士は、基本的に授業で単位を取ればOKという感じで研究をガッツリする印象はないです。
研究や実験が単位に含まれている場合もありますが、学生実験という感じで日本の修論ほど大変なものではないようです。
このように国や学科・研究室によっても卒業までのタイミングやプログラムの内容が異なります。
アメリカの大学院の卒業までのスケジュールについては以下の記事にまとめました。
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【授業が大変】アメリカの博士課程の卒業までのスケジュール【基本5年間】
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海外大学院に進学するメリット
まずは、理系大学生・大学院が海外のPhDに進学する場合のメリットをご紹介します。
PhD(博士課程の学生)は学費が免除される
大学によって異なるので事前に調べておく必要がありますが、ドイツにおいてもアメリカにおいても多くの場合、学費が免除されます。
アメリカの学費は年間300万円~500万円ほどです。
単純ですが、この費用が5年間分免除になったと考えるだけでも、1,500万円~2,500万円分免除になるということです。
学生にはとても払えない金額です。
僕もアメリカの大学院で学費の全額免除を受けています。
Nature等トップクラスに論文を出しているような一流の教授の講義が受けることができて質問までできます。
こんな貴重な機会が無償ってこんなにうれしい話はないと思いました。
日本でも学費免除はありますが、アメリカのほど多くの学生に適用されていません。
PhD(博士課程の学生)は給与がもらえる
奨学金や日本学術振興会の特別研究員、通称:DC1やDC2に採用させることができれば、日本でも生活費に値するものは受給されます。
学振の場合は、2020年時点で月20万円です。詳細が気になる方は、下記のHPをチェックしてみてください。
しかしながら、全員が採択されるとは限りません。
現に、日本の博士後期の学生で生活費に相当する支援を受けている学生は10.4%とかなり低いです。
(引用:文部科学省「平成29年:博士課程学生の経済的支援状況」)
これに対して、アメリカやドイツのPhDでは給与がもらえます。
僕が通う大学院の場合は、1年目の生活費は大学院側が負担し、2年目から指導教員が負担するようになっています。
その額は大学や教授によって異なりますが生活費をカバーできる程度、手取りはおよそ月20万円程度です。
手取りの額は大学の規定や州によって変わる税金によっても変化します。
僕は給与という形ではなく大学側からフェローシップとして頂いています。
この奨学金やフェローシップについては次のセクションで説明します。
給付型奨学金獲得のチャンスもあり
日本の財団や日本学生支援機構の学位取得型の奨学金を利用すれば、奨学金を受給される可能性もあります。
倍率が高いケースが多く、研究の実績と語学力の証明ではTOEFL 80点から100点程度が求められます。
僕の優秀な友達も日本の財団から奨学金をもらっている人もいます。
僕の場合は、日本からの奨学金ではなく、アメリカの大学院が用意するフェローシップという、いわゆる給付型奨学金を頂いています。
場合によっては他の奨学金と併用可能なこともあります。
各大学がこのような給付型奨学金を与えているケースも多いようで、僕の友達にも大学から奨学金をもらっている人もいます。
もし気になる大学があれば、大学のホームページをチェックしてみてください。
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研究設備や資金が豊富
2017年の研究費は日本が1.7兆円に対して、アメリカは約5兆円。
さすがアメリカという感じですね、約3倍も研究費が違います。
出典:OECD Main Science and Technology Indicators /Gross Domestic Expenditure on R&D-GERD(2019年8月)
研究者の数も違うため一概に言えませんが、この差は明らかです。
僕の個人的な肌感としても研究設備の規模や装置の性能もかなり高い印象です。
研究設備や資金が潤沢であれば、研究が進むスピードが速くなったり、得られる実験データも増えたりします。
お金があった方が研究が進むのは自明で、経済的な面においてアメリカは研究に適した環境であると思います。
もちろん、自分が進めたい研究では日本が一番進んでいるということもあると思います。
興味のある分野について、どの国・大学・教授が有名で技術が進んでいるのか調べてみるといいと思います。
学位取得後に海外で働ける
海外で就職したいと思っている人には朗報です。
アメリカでは学生ビザでは基本的に労働することができませんが、学位取得者向けにOPT(オプショナル・プラティカル・トレーニング)という制度があります。
仕事をしたり仕事を探す期間として、学位取得後に1年間の有給で仕事ができる許可が下ります。
特に工学や科学を専攻した学生は最大で3年間、アメリカで働く権利が与えられます。
同様に仕事を探す期間として、ドイツでも1年間のビザが発行されます。※この期間は現時点で調べたものですが、随時調べてみてください。
実際に海外で働く・起業するとなると、その国のビザの問題がいつも付きまといます。
僕が海外大学院進学を決めた理由の一つもビザの関係です。
海外に住みたいと思ったら、その国で学位を取得すれば居住権の面で優位になれます。
就活をする際にも現地にいた方が就職先を見つけるチャンスは多いですよね。
海外大学院に進学するデメリット
やはり、いいことばかりではありません。
次にデメリットと考えられる点を挙げていきますね。
学位を取るのが日本より困難・時間がかかる
個人的な見解が含まれており、こんなことを言うと日本で博士を取っている方に怒られるかもしれませんが、そう思う理由を挙げます。
理系でPhDを取得するのにかかる年数は5~7年間と言われています。
アメリカの場合、PhDの学生も多くの授業を受けることが義務づけられています。
僕の場合、必修単位は60単位でそのうち48単位を講義を履修して取る必要があります。
1コマあたり2時間45分の授業を16回履修する必要があり、週に4つの授業を履修していても2年間かかる計算です。
日本の大学院では頑張れば1セメスターで取得できるところを、始めの3セメスターから4セメスターは授業を受け続ける予定です。
授業の内容についても以前通っていた日本の大学院より遥かに課題の難易度と量が多いのが現状でした。
あくまで僕のケースですが、日本のように3年で終えたり半年短縮したりするということはまず物理的に不可能に思えます....
また、博士課程において途中で退学する学生の割合は約30%です。
授業の平均がB以上でないと強制退学させられる大学もあるようです。
僕の大学院の場合B以上でないと要件を満たすための単位として認定されません。
日本の大学院ではレポート提出のみの授業もありましたが、こちらでは一つも見当たりません...
宿題の量や授業の評価について、日本の大学院より厳しいと思います。
語学力が必要になることも合わせて、単位の面で言うと日本よりも学位取得は難しいと思います。
仮にPhDが取得できなくても、修士号の要件を満たす単位をきちんと取っていれば修士号はもらえます。
周りをみていても、博士号が取れるとわかっているから進学したというより、博士号に挑戦しているという印象があります。
ドイツで卒業にかかる具体的な年数や要件は見つけられませんでしたが、プログラムによって卒業するタイミングにばらつきはあるようです。
ドイツ留学中に学内に張り出された単位修得表も授業に寄っては半分以上の学生が単位を落としていました。
個人的な意見ですが、アメリカやヨーロッパと比較して日本の授業は優しいと感じます。
給与の代わりにRAやTAが任される
給与がもらえると記述しましたが、ドイツでもアメリカでもRA(リサーチアシスタント)やTA(ティーチングアシスタント)を業務として行う必要があります。
このRAやTAは大学院のプログラムによっては義務であったり、指導教官に指名されたりします。
セメスター中のTAだけでなく、夏季休暇中限定の学内のアシスタントもあります。
その業務内容は授業の準備から採点まであるようで、指導教官の教授によってさまざまです。
僕の場合、フェローシップという給付型奨学金という形で頂いて、基本的に業務をする必要はありませんがTAをすることは立場上可能です。
業務を遂行する場合、通常もらえる給与に上乗せしてTAとしての給与をもらえることもあります。
一方で、日本で博士課程の学生は、修士の学生や学部の学生の実験を手伝ったり面倒をみたりしています。
無給で自分の研究に関係のない仕事をしていると考えると、仕事をして生活に十分な給与がもらいながら、大学に通えるのであればデメリットではなく打倒とも思えます。
結論
この記事の内容は、実際にアメリカの博士課程に在籍している僕個人の意見や視点として捉えていただければ幸いです。
僕は海外大学院に来て大変に感じることも多いですが、その分経済的な面や自分の成長という意味でも得られるものは大きいです。
海外大学院進学(PhD)のメリットまとめ
- 給与がもらえる
- 研究設備や資金が豊富(とくにアメリカ)
- 海外就職に有利
- PhD取得に対して厳しいが、単位さえ取れば修士号は取得できる(アメリカ)
アメリカは実力社会で、日本よりも厳しい印象があります。
海外で生活することも踏まえて立場がマイノリティとなり海外大学院進学は総じて大変でしょう。
しかし、特に経済的な面においてメリットが多く、挑戦したいと思う人には是非その一歩を踏み出してほしいと思います。
アメリカは秋入学が主流なので、日本で博士後期課程進学を選択し、アメリカの大学院に合格をもらったら、日本の大学を中退するという方法もあります。
僕は教授に声をかけて頂いて、他の大学をほとんど調べずに進学してしまいました。
この記事に書いた実情やメリットやデメリットを、後から知ったので、もっと調べておけば良かったと後悔しています。
他の方のブログや書籍を読んで、後悔のないようにできるだけ情報を集めてみてください。
大学やPhDプログラムによって制度が異なるので、自分の興味のある大学を調べてみてください。
アメリカでのPhD取得に関してもっと知りたいという方は、「できる研究者になるための留学術 アメリカ大学院留学のススメ」が良いと思います。
MITでPhDを取得された先生の本で、体験に基づいて申請から英語学習のアドバイスまで書かれています。
若干高めですが、2019年出版と他の本と比べて情報が新しいのも魅力的です。
2010年と少し古いですが、こちらも理系の大学院留学について詳しくまとめられている「理系大学院留学―アメリカで実現する研究者への道」も評価の高い本です。
Kindle Unlimited を 購読している方へ
僕も購読しているのですが、Kindle Unlimitedに登録されている【2020年5月現在】参考になる本です。
・女性で理系博士号を取得された渡辺さんの「Ph. D. in the USA」
・アメリカで医療系の博士号を取得された青柳さんの「アメリカ大学院留学 A to Z ~医療従事者編~」
最後に伝えたいこと
僕はアメリカの大学院に正規留学するのが本当に怖かったです。
なぜ海外大学院進学を決めたかというと、「この一歩を踏み出さなければ必ず後悔すること」だけは知っていたからです。
才能や素質はあっても、勇気は誰でも持てる。勇気を持っているだけで人生は180度変わると思っています。
皆さん全員に海外に行ってほしいとは思っていませんが、一人一人が自分らしく後悔のない選択ができるようにお手伝いできればと思っています。
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